本を声に出す喜び
小雨の降る日曜日、お出かけするのがおっくうになりそうでしたが、どうしても蓮の花の匂いを嗅いでみたくてやってきました。
先日の「大人の表現活動」では、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の冒頭を読みました。
ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のように真っ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、なんとも云えない好い匂が、絶え間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
このたった三行を、お釈迦様になりきって、ゆったりと歩きながら、朗読をしました。
以前見た蓮を思い出しながら、極楽の蓮池をイメージしました。
玉のように真っ白な蓮がいくつもいくつも花開こうとしている朝。
そして開いた真っ白の蓮の真ん中は金色で・・・と、そこまではイメージできたのですが、蓮の花の匂いの記憶がないのです!
どんな匂!???
気になり始めたら、気になって、近くに蓮池があるとの情報を得て、行ってきました。
そこに行ったら、『蜘蛛の糸』の朗読をしてみたくなるかもと、一応、車の中でいつものようにボディートークの発声練習をし、できるように準備をしていました。
ところが、カメラを手にした方々が結構いらっしゃる。
雰囲気的にも、極楽とは程遠いなぁ~と、少しがっかりしながら、蓮池の周りを歩きました。
こんなところで、『蜘蛛の糸』の朗読なんかをしたら、みなさんギョッとされますよね。
すぐ近くに咲いている蓮に鼻をくっつけてみましたが、・・・???匂いません。
でも、虫たちには匂っているのでしょうね。
花の金色の蕊にも、たくさんの虫たちがいて、ごちそうを食べているところでした。
どの花にも、どの花にも、しっかり虫たちがいて、美味しいんでしょうね。
そのころから、蓮のパワーにいい気持ちになってきました。
2周ほど、池をぐるりと周りました。
蓮の大きな葉の上にたまった水が、風が吹くと、池へと零れ落ちます。
その音が、普段は聞いたことのない、不思議な世界へと連れていってくれます。
時折、カエルが跳びこむ音も。
小雨が降ったりやんだりで、久しぶりに池の上の雨を見た気がします。
朗読をすると、言葉の一つ一つが気になります。
ある日って、どんな日だろう?
御釈迦様はどんな姿勢で歩かれたのかしら?
どんな肌触りの衣を着ているのかしら?
蓮池の空気はどんなだろう?
そんなことを考えながら、声を出していると、そのイメージの世界が立体となって、自分がそこへと入り込んでしまいます。
自分の今までの体験が、そのイメージをふくらませます。
朗読をしたことで、自分の体験が豊かになります。
その体験の後、もう一度朗読すると、さらに、その世界がクリアになってくるような気がします。
子どもの絵本の世界も、そうなんでしょうね。
今、『おつきさま こんばんは』を朗読のレッスンで学んでいます。
この本を読んで、もっと、おつきさまが好きになって。
実際のおつきさまを見た時、この本のことを思い出して、「おつきさま こんばんは」って呼びかけてみたりして・・・。
そして、また本を読んだら、今まで見たおつきさまのことが思い出されて・・・。
そんな幸せの繰り返しができるんですね。
子どもにも、大人にも、私自身にも、豊かで幸せな体験が繰り返されるように、この世にたくさんある素敵な本たちを、声に出して読んでみたいと思っています。